さよならを教えて

巷で話題の電波ゲー。
分裂病統合失調症)患者の主観を味わうゲーム。


エロスとタナトスの葛藤を延々と聞きつづけるお話。
知覚したい、できない、したくない、されたい、されない、されたくないのどうどう巡り。
めぐりめぐるウロボロスの環。
内的世界を外界に上書きする事で得る、無限で永遠の世界。
逃避へのアンチテーゼ。

現実に接触するという羨望と恐怖の狭間で創り出された、一つの永遠の、虚構の世界。
輝いていた日々というような意味合いでの永遠の世界ではなく
主人公が世界を知覚するために構築した、永遠の世界。


人は、見て、聞いて、感じた事象から自己の内に世界を形成する。
事象から世界が構築されるまでに、感覚器官と脳というフィルターを通す。
客観的事象から構築される主観世界。
例えば一つの文章で、とある単語に強い関心を抱く
文脈とは無関係に、その単語について思考を巡らす。
それは、事象(文章)から主観世界が構築(文章の理解)されるまでに脳が介在し
事象を分解し、切り出された事物にプライオリティーが付加されるからだ。
切り出された事物を個々に理解し、体系的に繋げ、集合体としての構造を把握する。
事物を事物として認識し、体系的な構成に障害が発生した場合
構造は失われ、圧倒的な非現実感に襲われる。


Angeを除くキャラクター達は、主人公が作り出した存在であるから
主人公以上の世界の広がりは持たない。
意識・無意識に格納された事象のみにより、主観世界に構築される。
この構築された物は、主人公が望む事しかしない、できない。
”さよなら”は、現実世界の許容によって、訪れる。


このゲームのテキストは一人称視点で書かれている。
一つの楽しみ方として、主人公に感情移入する事。
わけもわからず泣きたくなって
叫びたくなって
許してほしくて
でも僕は穢れているから救われることなんかなくて
でもやっぱり許してほしくて
そういえば今日の夕飯は何を食べようかな
僕は穢れている


一つの楽しみ方として、プレイヤーが客観視する事。
主人公は現実の重みに耐えかね、虚構の世界を作り出した
それでも現実との接点を残し、また、現実の存在たる彼女との繋がりを渇望する彼は
妄想の世界から抜け出し、現実へ回帰する事を望んでいる。


精神的重圧に対して、人は大抵の場合
無視するか自分を騙すための論理回路を用意して
その重圧を回避または緩やかに吸収する。
精神における自己防衛機構による、現実のすり替え。
人が生きていくために当たり前にやる事を
ただただ突き詰めていくと、人は虚実を取り違え、現実に虚像を見出す。


私はこれを一笑に伏す事ができない。


「雫」とは違う狂気
終の空」とは違う視点で語られる狂気


さよならを教えて”とは、誰が、誰に向かって言っているのか。
私が、私に向かって言う言葉。
私が創り出した世界に、描き出した者達に
眩いイデアを見据え、宵闇のドグマにさよならを。